厚木看護専門学校

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お知らせ

全国看護学生作文コンクールに入賞しました

2024.07.08

第15回全国看護学生作文コンクールが開催されました。今年度は「私と看護」がテーマでした。

2,000通を超える応募の中から当校の学生が入賞しました。実習を振り返りながら作文を書くうちに自身の看護観がより明確になったそうです。

 受賞をお祝いしました。

 

受賞作品の紹介

「患者の世界にふれる」3年生 蒔苗 志歩

私は実習でご高齢の認知症の男性を担当させていただいた。柔らかな表情で微笑み、両手をお腹の上で軽く重ね、ゆっくりと会釈される姿から、彼の気品を感じた。Aさんとの会話から、長年デパートに勤務されていたことがわかった。

翌日、Aさんから便の臭いがしていた。彼自身はその臭いに気づかないようだった。トイレにご案内しても、トイレであることを認識されていない様子が伺えた。この日から、失禁の改善を目指して、決まった時間にトイレへご案内する計画を立案した。トイレであることを伝え、自らお尻を拭くように促し、排泄がなくても手を洗うように繰り返した。Aさんは、便座に座りながら、トイレットペーパーを広げたり、丁寧に畳みなおしたりされた。私はふと、Aさんが今トイレではなく、デパートの売り場にいると感じた。「今、お仕事中ですか。」と尋ねると、Aさんは「そうです。」とご返答された。以後、トイレットペーパーを広げては畳む動作を繰り返すときには、Aさんは職場にいらっしゃる状態だと考え、動作をすぐには静止しないようにした。また、畳むのを終えていただいたら、場所を移っていただきたいと伝え方を変えて対応した。ある時、ウォシュレットを作動させると、便座を座りなおす仕草をした。この瞬間には、トイレを認識されたようで、実際に排便があった。Aさんの仕草や表情をよく観察し続け、トイレへのご案内を根気よく続けた。その結果、Aさんはトイレと認識された日が一度だけあったが、それ以外の変化は見られず、失禁も改善しないまま実習は終了した。

Aさんに大きな変化は見られなかったが、私自身の意識が変化していたことに気づいた。最初は失禁が改善せず、Aさんがトイレと認識してくれないことに失敗した感覚や焦りがあった。Aさんと関わる中で、病衣姿から、スーツ姿で過ごすAさんが想像されるようになり、Aさんが職場でどんな声をかけられたら安心するだろうかと考えるようになった。次第にトイレットペーパーを広げては畳む仕草を見て、私は楽しさを感じるようになった。Aさんの世界を想像すると、自分の気持ちが高揚した。自分の声かけがAさんに届いた時には幸せな気持ちにもなった。患者の立場にたつことは、患者をケアするだけでなく、自分自身を癒すことを実感した。さらに、こうした仕事を一生続けていきたいと感じ、Aさんに感謝の気持ちが湧きあがった。

この実習を通じて、患者の尊厳について深く考える機会を得られた。看護の仕事は医療行為だけでなく、患者との心のつながりや共感が重要であることを痛感した。これからも看護学生として、患者の人生や生活を知り、患者のいる世界にふれながら、患者のための看護とは何かを追及していきたい。

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