厚木看護専門学校

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看護への情熱がみがかれていく。

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全国看護学生作文コンクール入賞作品

2022.07.15

家族と共に迎える誕生日

「今、コロナで面会が出来ないから話す人ができて嬉しいわ」とAさんは私を快く迎えてくださった。私は看護学校の2年生でコロナ禍の中、始めての臨床実習にて90歳代のAさんを受け持たせていただいた。Aさんは笑顔で私を受け入れてくださったが、入院という日常とかけ離れた生活のなかでの不安や家族に会えない悲しみがあるのだろうと思った。少しでもそのような不安や悲しみが軽減するように、沢山Aさんのもとに伺いお話をした。

ある日「家族は私の誕生日会を開きたいって言っているけど、入院しているから今年は無理よね」とポツリと話した。Aさんの誕生日が1週間後であることを知り、コロナウイルス感染症が終息しない状況だが、何とかならないのだろうかと思いつつも、仕方がないことなのだろうかとも思い、心にわだかまりが残った。その翌日、他の患者さんがご家族の方とドア越しに面会をしている姿をAさんが見て、「ドア越しでも家族に会えることは幸せだね」と言った。私はAさんの思いに対して、このままではいけない、何かしなければならないという気持ちが沸き起こってきた。Aさんの思いについて、実習のグループメンバーと病棟スタッフと話し合いをする機会を設け、対策を考えた。病棟スタッフの方々の協力を得ながら、感染対策を講じ、家族が来院して誕生日会を開催できることになった。

誕生日の当日、遠方にいる親戚から手紙や写真が届き、同じ病室の患者さんはAさんのためにバースデーソングを歌って下さった。私はAさんがお好きなお花のバースデーカードを渡し、誕生日を共に喜んだ。Aさんは大変嬉しそうであった。Aさんは家族を待つまでの間、今まで話題にしなかった戦時中の話など様々な話をして下さり、Aさんが人生を思い返しているように見えた。そして、Aさんは誕生日を迎える事を日々の活力にしていたと教えてくださった。90歳という長い人生の中で、Aさんにとって誕生日を共にすごすことは人生の目標であり、生きがいとなっていることに気が付いた。また、家族にとっても誕生日をお祝いすることは、今後の人生において糧になる意味あることなのではないかと思った。家族が来られた時には、家族だけの時間を過ごしていただいた。誕生日翌日は、Aさんは大変満足そうな表情をされており、治療に前向きに取り組まれていた。

実習最終日、Aさんは「もう会えないのは寂しい。でも私ももうすぐ退院できるから、お互い良い形で終わりそうだね」と一緒に喜んだ。退院を目前に控えたAさんは生き生きとして見え、私はAさんから元気をいただいたと感じるほどであった。

私はこの経験から病院は治療だけでなく、患者さんの人生において大切なものを守り、瞬間瞬間の患者さんのニーズを読み取って家族との関係にも橋渡しをすることが大切だと改めて気づくことができた。そのことを実践するためにも患者さんの目標を一緒に支援することが重要であることを実感した。Aさんの大切な1日に関われたことは私にとっても忘れることのない大切な看護経験となった。

厚木看護専門学校 武井絵麻

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